本日茲にブリヂストン美術館の開館式を挙げるに当りまして、皆様にはお寒いところを早朝からお集りいただき、誠に有難うございます。就きましては此機会に、美術館開設の趣旨を聊かお話申上げ度いと存じます。
私は18歳から実業に従事しまして今日迄46年の長い間、事業は極めて順調なる進展を致しましたことと、ブリヂストンタイヤ株式会社創立二十周年記念事業として、ビルディングの建築を企てましたから、その中に何か公共的な記念事業と思い、2階全部400坪を「ブリヂストンギャラリー」として使用する設計で工事を進め、今回目出度く竣工し、茲に美術館開館の運びに至りました。
美術館の事業としましては、内外の絵画、彫刻等を陳列すること、外国より借入れ展観すること、或は一般の絵画展覧会、文化講演会、映画会、音楽会等を催すこと等、美術の普及奨励に力を注ぐこととし、此為権威ある運営委員会を設け、社会一般の御期待に添うべく万全を尽すつもりであります。
それから私のコレクションの事を申上げますが、今日有名な坂本繁二郎画伯が当時17~8歳の頃私達小学生の図画の先生でありました。其後坂本さんは東京に去られ30年を経て再び郷土久留米に帰られて丁度私の住居の櫛原町内に居を構えられ、爾来昵懇にして居ります。
その坂本さんから、我々の先輩青木繁は大天才画家で郷土久留米の非常な誇りである。その作品も久留米地方に多く散らばっているが、将来残らぬような事があっては残念で、何とか集めて貰い度いと云われて集めたのが私の絵画蒐集の始りで、其後昭和10年、私は居を東京に移し、更に青木繁の画の蒐集は青樹社に依頼し、1枚の絵に何年も骨折って手に入れたものもありまして、代表的作品は一応揃ったと思います。
それから藤島さんとも懇意になりました処、藤島さんが述懐されるには、自分が一生の仕事とした作品が将来どうなるかを考えると実に淋しい。パリ滞在時代の絵は盗難で失ったがイタリーで描いた絵の中、気に入ったものだけは今以て人手に渡さず纏めている。これが散り散りになって行くことは心配でならない、という事でしたので、私が青木繁の作品と共に他日美術館を設けて保存しましょうという事で愛蔵の絵を私に譲られました。
それから外国のものは、フランス印象派と現代のものを主流とした絵画及びロダン其他の彫刻等近代美術を私の好みで手に入れたもので、戦時中は栃木県に疎開し、戦後、住宅と共に接収されましたが、昨年秋、住宅が米国務省に買上げられて美術品だけ私の手許に戻りました次第であります。
又序に申上げますが、一昨年私が渡米いたしました際、米国の主なる美術館を見学して聊か知識を得ました事は、ニューヨークのモダンアートミュージアムはロックフェラーセンターにあって最も便利で、一寸飛び込んで観られるように造られて居り、吾々の今迄の観念では、美術館というと大きな公園の中に建てられた立派な大理石造りの宮殿式のものを考えますが-事実米国の大美術館は大体そうなって居りますけれども、このモダンアートミュージアムを見ましてから、交通の最も便利な都心にある此のブリヂストンビルの中に開設することは、理想的であると考え、愈々決意した次第であります。
又特に感じましたことは、米国の何処の美術館に参りましても非常に親切にされました事で、ハーバード大学の美術館を訪ねました時は、添書は無論持参いたしましたが私の突然の訪問に対して、館長ウォナー博士が自ら案内され、日本並に東洋の美術は大変結構だ、古い伝統を持つ尊敬すべきものだという事を申されましたので、私は我々日本人は、京都とか奈良、鎌倉の文化都市が空襲を免れたのは博士の助言に依るもので、感謝に堪えませんと申しました処、博士はいや私にはそんな力はありませんと非常に謙遜されました。
更にボストンの今一つの博物館でも、團さんから富田さん宛の添書を貰って居りましたが、生憎御病気で休んで居られ、秘書の女の方に手紙を渡しました処、間もなく館長が態々出て来られ2時間余懇切に案内して下さいました。又先日ロックフェラー夫人が態々私の家をお訪ね下さいまして土蔵の中の絵を御覧になり、あなたの方と自分のやっているモダンアートミュージアムは兄弟のお付合をし度いと申され、その好意に感謝している様な訳で、美術を通じて国際親善が出来る事と、美術は如何に人間の心を豊かなものにするかという事を痛感致しました。更に又、今日容易に欧米に留学出来ない画学生の勉強に供することにもなり、又一般大衆の心を慰めることが出来れば社会的に大きなサービスとなりますし、又私のコレクションの中に画家畢生の名作品もあるかと思われまして、かかる貴重なる文化財を個人で只死蔵するに忍びないものがありますので、今日これを公開して常設展観に供する事とした次第であります。
然し美術館陳列のコレクションとしては頗る未完成で恥かしいものであります。今後益々内容の充実を図り御期待に副い度いと存じますが、私の微力を以ては容易ならぬ次第でありますから、皆様の御援助を切に御願いたします。
尚この設立計画を始めるに当りまして以来、各方面からの御同情御声援に対し深甚の謝意を表しますと共に、特に委員の方々が我事のように熱心に考え、細大洩らさず御配慮いただき、今日の開館を迎える事の出来ました事を心からお礼申上げます。
『ブリヂストン美術館館報』(1号、1952)より転載
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